スモールトーク

まさかのスイッチングコスト

 大きな会社も小さな会社も、給料の計算をするのにパソコンを使わず手書きですべて処理しているところはほとんどありません。そして、パソコンで給料計算するのに自分でエクセルなど使って計算式を組み立てる人よりも、専用のソフトを作成したり購入したり利用する人の方が多いと思われます。私たちの事務所でも、給料計算はずっと同じソフトを使って作業を行い、マイナンバー管理や労働社会保険手続などもそれぞれの専用ソフトを使わないと仕事ができないのが実態です。システム面ではサーバーを立てたりクラウドに乗せたり、セキュリティ面では機械的物理的な安全性と情報漏洩の面からの安全性を確保したり、作業環境の整備も大きな課題になってきています。かつてならウイルスなど外部からの脅威に対してパソコンをネットから切り離してスタンドアロンで運用することも出来ましたが、今はネットなしでアップデイトもサポートも期待できず、ランサムウエアなど危険なウイルスは進化し続けているなかUTMの設置が当然のように言われています。私たちの事務所では、給料計算ソフトの更新にあたり、サーバー機能を持ったパソコンに給料計算業務とマイナンバー管理業務を納めてNASSでバックアップするスタイルのところに労働社会保険手続も加えたいと考え、更にはファイアウォール機能を有するサーバーを残してクラウドでもバックアップできればかなり安全性が高まるつもりをしていました。ところが、システムの更新に伴い従来の方法では料金が数倍に跳ね上がり、レベルを落としても倍以上の料金設定になると告げられ、まさかと思いながらも渋々と同意するよりない状態に陥りました。時間と能力から選択の余地のない局面での判断でした。実は、振り返って考えると、他のシステムに乗り換えるという選択肢は既に捨てていました。なぜなら、現行システムに目立った不都合がなく、わざわざ乗り換えの時間と手間を使ってもその負担に見合う大きなメリットを得る見込みがなかったのです。また、よほど使い勝手のいいシステムでない限りは、使い慣れた現行システムを離れた後もきめ細かい業務を確実に遂行できるかどうか、大きな不安を抱えていたことは間違いありません。そして、イニシャルコストが嵩んでもシステムの乗り換えを断行するまでの覚悟がなく、まさか、現行システムの延長を前提にして料金のアップがあっても数倍などとは考えていなかったことも確かです。営業戦略から見ると、物理的コスト・心理的コスト・金銭的コストというスイッチングコストを押さえられていて、見事な「囲い込み」に捕えられていたことが分かります。

2022年2月28日