スモールトーク
イノシシのリベンジ

カモシカ!と声に出したら、「さっきからイノシシと言ってるだろ」と笑われましたが、雪崩の痕の谷の斜面を登るのはカモシカだけではなかったのです。この日、双眼鏡の先に見えたのはイノシシばかり6頭で、3頭ずつに分かれて少し緩んだ雪の中を歩いていました。白山麓一里野スキー場を通り抜けた先のブナオ山の観察小屋から見ると、谷越しの斜面にニホンカモシカやニホンザル、テンやキツネや時期によってはツキノワグマやニホンジカ、空にはイヌワシも現れるということで、積雪地域では生息できないと思い込んでいたイノシシもちゃんとラインナップされていました。いわゆる暖冬なのか、例年の山間地なら日中でも氷点下になるのが当たり前のバレンタインデー、スキー場までの道路は除雪が行き届き、その先の林道も気温はプラスで路面が凍結するほどのことなく雪の壁の間を走って小屋の近くまで辿り着きました。車を降りて歩く斜面の雪も緩み、振り向いて少し重心がずれたりするとゴム長がズブズブと雪に沈むような日でした。足の短いイノシシが積雪地に棲息しないというのは雪から足が抜けなくなるこんな経験をすると妙に説得力があります。しかし、イノシシはもとから土を掘るのが得意で、雪の中を進むときはラッセルして道をつくれば胴が雪に支えて立ち往生することは無いようです。根拠は不明ながらイノシシの棲息域は北上していて、空白域と思われていた北陸地方や東北地方での棲息が確認されています。西日本だけという印象の強いイノシシも時代によって住み心地が違うのか、一説では、東北地方では明治以前には棲息が確認されていたイノシシが明治になってから絶滅したともいわれています。それなら、イノシシの復活ということになります。豚肉を食べる習慣との関連は分かりませんが、人間の活動とも関連するのかも知れません。平地では害獣とされ、里山の田畑は防護フェンスで囲われることも珍しくない時代、鼻の利くイノシシは地中の筍を掘り当て、水を止めた収穫前の水田をヌタ場に変えて稲を台なしにし、本当かどうか、酷い臭いを残した後は暫らく作物もできなくなると言われます。イノシシ退治と言うことなのか、ひと頃よりは捕獲も進み、ジビエ料理として調理も研究されて、人間との棲み分けのバランスも見極めができそうです。ツキノワグマもニホンカモシカも、市街地に降りて来るのが珍しくない時代、次にこの谷の向こうに何が見えるのか、期待もあり不安もあります。
