スモールトーク
ツーリング
もう随分と昔の夏のことですが、京都まで旧道を使って、日帰りのツーリングに出掛けたことがあります。私はクランクケースにオイルの滲んだホンダのバーチカルツイン、連れはボイラーサウンドが響くヤマハの2スト水冷、ともに中古の250CCでした。早起きしてスタートしたのですが、事件は途中の峠道で起こりました。ヤマハのクラッチが効かなくなったのです。アップダウンの多い道を、回転を合わせて騙しながらギアチェンジして、何とかバイクショップの看板を見つけたものの、クラッチワイヤが切れているのにお盆休みでパーツが入らないとのこと。
どこかに在庫があるかもしれないと、少し戸が開いていた自転車屋さんに入ってみると、ステテコの親爺が箸を握ったまま奥から出てきて、事情を話すと、「飯を食うまで待て」と引っ込んでしまいます。時間の無駄かと思い始めた頃、着替えて出てきた親爺はさっと修理を終えてしまいました。「昔はこうやって部品を作ったものだ」と、当たり前のことのように話してくれました。実は、店の奥に引っ込む前にハンダごての電源を入れて、こてが暖まるまでの間に飯と着替を済ますという段取りだったのです。おかげで何とか銀閣寺までたどり着き、使い込んで燻し銀のようになったイーハトーブのお出迎えをうけて無事に引き返しました。
2006年8月1日