スモールトーク

デク廻し古浄瑠璃

 数えてみると十年以上も前のことです。雪を被った妙高山を白波が走る日本海上から眺めて初めて佐渡に渡りました。トキを見ることができるかも知れないというほか、特にあてがあった訳ではありません。ただ、印象に残ったのはミズガニみたいに軽い紅ズワイと随分と力の入った人形芝居の展示でした。紅ズワイはこれが初めで最後ですが、この佐渡の人形芝居と尾口村の木偶廻しとが同じ会場でコラボして公演という案内があったので、自宅に近い会場でもあり早めに仕事を切り上げて見に行ってきました。国立劇場で上演するような文楽は見たことがなくて比べ様もないのですが、程度の差はあれシンプルな構造の人形を体ごと揺らして使い、繰り返し足を踏み鳴らして盛り上げる舞台はその場に居てこそ伝わるものでした。多くの人に見てもらうために、飲食禁止のホールでの上演でしたので、椅子に座って舞台を見上げる位置でした。尾口村の東二口の集落で実際に上演されるのはいちばん雪が積もる2月、幕で仕切った舞台を畳の上で弁当など食べながらじっくりと座ればもっと楽しむことができそうです。きっと、村が栄えたころには、旅回りの芸能も有ったかも知れませんが、上方で教わった人形使いを楽しみに、雪の下で多くの人達が集まって冬の時間を過ごしたことと想像します。しかし、高齢化して世帯数も十数戸の限界集落とされる東二口の村では、木偶廻しを演じる人たちの手も足りず一人で何役かこなしながら辛うじて上演を維持しているそうで、抱える不安は後継者不足というレベルを超えて集落の存続が課題になるほどの深刻さです。

2014年9月30日