スモールトーク

ビジネスと人権への取り組み

 新しい年は「ビジネスと人権」に取り組むことにします。「ビジネス」と「人権」という二つのことでなく「ビジネスと人権」という一つの概念として、BHR(Business and Human Rights)と略され、ILOでは国家と企業と救済の3つの柱を挙げて企業にも行動を求めています。私達には教科書などで馴染みのある、フランス革命の自由平等を礎とする人権宣言や統治機構や日本国憲法を構成する人権宣言とは別の機能を持ち、多国籍企業を介したビジネスのサプライチェーンから企業の人権救済措置を実現しようとするものです。具体的な人権リスクとして差別やハラスメントそして児童労働や強制労働などが挙げられ、企業が自らの事業活動を通じて人権に負の影響を及ぼし助長することを回避軽減すべきことが求められます。経済のグローバル化に伴い、国境を越えた環境汚染や強制労働などの人権侵害への対応が企業の社会的責任として要請されています。大企業にとっては当たり前でも、小規模企業にとってサプライチェーンの末端まで見通すのは大変なことです。ウイグルでの児童労働や強制労働あるいは日本での人身取引が問題とされ、自国の法律を遵守していても国際基準からは是正が求められたり、サプライチェーンの遥か先の問題に改善を求められたり、取引関係により企業の存続がかかるほど大きな課題になります。既に国連では「ビジネスと人権に関する指導原則」として枠組が形成されており、企業が直接の当事者として関わる人権リスクのみならず、第三者を通じたサプライチェーン上の人権リスクにまで企業が責任を負うことが明記されています。企業の人権配慮が国際的な枠組みで規定されているなか、日本は人権に関する国際条約の一部しか批准していないため、企業がこの指導原則による責任を果たすには、日本の法令遵守に加えて「国際的な人権基準」に基づいたリスク対応をするより有りません。また、広くSDG‘sが認知されるに伴い人権や環境と経済成長の両立が企業経営の前提となり、企業にとっての人権問題はCSRの一環でなく、企業価値の維持・向上のために取り組むべき重要な経営課題として捉えられています。実際に大手企業は人権方針や調達方針を策定してサプライヤーに人権配慮を求める動きが有り、その対応が株価や取引に影響すると考えると、企業としての人権対応は経営戦略として重大なリスクとなりチャンスともなります。求められるのは「強制労働禁止」「児童労働禁止」「差別の撤退」「結社の自由と団体交渉権」の4点であり、企業が果たすべき人権尊重責任への具体的な取り組みプロセスを「人権デューデリジェンス」と呼んで、「人権方針」を策定して「影響評価」を行い、侵害には「是正措置」をとり、継続的な「モニタリング」を経て取り組みを「情報開示」したうえ、「苦情処理」メカニズムを整備するものとされます。「人権方針」策定にあたり、企業トップを含む経営陣が検討し承認、専門的知見を参照して作成、関係者に向けた人権尊重の期待を明記、取引先等への公開と周知、企業全体への人権方針の反映、がコミットメントの要件とされています。そして、ステークホルダーとの対話の中で、事業活動による人権侵害リスクを特定評価して防止軽減を図り人権尊重の取り組みの実効性を評価して情報開示するプロセスが人権デューデリジェンスであり、リスクの深刻度の高いものから着実に実行することになります。これは、継続的に企業が人権を尊重する姿勢を見せる取り組みとなり、適切で効果的な対応につながることになります。指導原則自体は法的拘束力のないソフトローですが、欧米では人権に関する取り組みの法制化が相次ぎ、顧客が法規制の適用をうけると自社に情報提供を求めたり対応を求めたりということが見込まれます。遅れた取り組みにはなりますが、私どもの事務所としても「ビジネスと人権」についての対応を準備することにしました。