スモールトーク

危険で贅沢な白亜紀の壁

 5月は父親の祥月で、墓場の近くを通るとき思い出しながらも、時間を作ってお参りしようとするころには日が過ぎてしまうのがここ数年の繰り返しでした。いつもこれでは父に申し訳ないと思い、今年は母がお世話になっている施設の方にお願いして墓地で母と時間を合わせ、一緒にお参りすることができました。穏やかな風で陽射しも柔らかく、母の体調も上向きだったようで、正月以来の実家に上がり込んで仏壇にお参りすることもできました。草藪になった背戸の畑を見ても母から小言が聞こえてこないことに寂しさを覚えながら、自分の植えた花が咲いているのに気づいて幾輪か切って持ち帰ってもらえたので気が鎮まりました。次はお盆かと思い、草の茂る隙間に植えた苗に水遣りをして、そのまま帰るには少し時間が早いので、白山麓に向けて車を走らせました。白山手取川ジオパークの認定でおすすめスポットになる桑島の化石壁まで行ってみようかと考えたのです。まずは、ダムを挟んで対岸にある白山恐竜パーク白峰に立ち寄りルートを確認したら、立ち入り禁止とは言われないまでも足元が「危険」だそうで、廃屋の駐車場に車を停めてダム越しに眺める方が見晴らしがいいようです。わざわざ危険を冒すほど気合を入れて行くつもりはなく、靴もヘルメットも手袋も準備しておらず、せっかく入場料を払ったので白山恐竜パーク白峰で時間を過ごすことにしました。恐竜といえば峠を越えた先の勝山にある福井県立恐竜博物館が有名で規模が大きく見応えのあるものです。ただ、現在こちらはリニューアル休館中とのこと、それまではこのエリアだと白峰の独壇場というところで、市役所スタッフの方が言う「元祖」としての存在感が重い施設です。元祖というだけあって随分と古い施設で、化石を見つけることができる建造物を解説した案内図には「石川銀行武蔵支店」の名称が残されていて、合併して白山市になる前の「白峰村」の時代から運営されていることを窺うことができます。とはいえ、行政の気遣い旧石川県庁舎「しいのき迎賓館」は真新しい修正が施されていました。金沢方面からはUターンするように右折して急坂を這い上がるあたりからスリリングで、綺麗にペイントされ次々と現れる恐竜の卵の案内板に目を停めるゆとりはなく、大型バス可とある駐車場をみるとバスが来なくてよかったと思います。施設自体は小学生を退屈させないよう意識した感じで、化石発掘体験なども準備されているので、家族で楽しめる施設として見ると弁当があれば一日コースかも知れません。パンフレットによると一般ボランティアに参加要請して化石調査や化石クリーニング・レプリカづくりも実施しています。恐竜の化石だけでなく、桑島化石壁と呼ばれる一億三千万年前の白亜紀前期の堆積地層に埋まっている多様な動植物の化石を見つけるのは、他にはない贅沢な遊びのようです。さて、我が家の墓石は黒御影だったか、化石が浮かぶ堆積岩ではなかったはずです。