スモールトーク
大正生まれのサムライたち
放送作家になった経緯から始まり“探偵ナイトスクープ”の話で終わるのかと思って聴いていた百田尚樹さんの講演は、忘れ去られた日章丸事件の資料を手に入れ小説「海賊とよばれた男」を書き上げるに至るまでを父親の話を交えながら涙の締めくくりでした。石油を自由に輸入する事が困難なためペルシャ湾にタンカー日章丸を極秘裏に送り込み、偽装して海上封鎖も突破して事実上まだアメリカ統治下の日本に無事に帰港したということで、石油の国有化を宣言したイランに事実上の経済制裁・禁輸措置を執っていたイギリスに“喧嘩を売った”出光興産と日章丸船長そして取り巻く財界・政界・官界のサムライたち、当時は大騒動だったこの事件がなぜ忘れ去られ消え去ったのかも作者の課題のようでした。この話の登場人物の多くを実名で書いたということですが、大正生まれの人たちであり、大東亜・日中・太平洋戦争で命を落とした多くは大正に生まれた人たちであり、大正に生まれた人の何割もが戦死しているということです。そして、大戦後の復興に力を尽くしたのも大正に生まれた人たちであって、彼らが何もないところから今の日本を築き上げることができたのは、共に還ることのなかった友への想いが支えとなったことを熱く説いて話が終わりました。明治と昭和の間に挟まれた十余年の大正生まれは戦中世代、昭和12年の日中戦争の開戦時に十代から二十代なかばの世代です。何も知らずに戦地へ赴いた出代ではなく、軍国日本ではあっても開戦前の平和な時代を知っていた人たちです。遥か先に光を見ることができた人たちであり、心の奥底に支えを失うことのなかった人たちです。私にも大正生まれの父が少し見えたように思いました。
2014年11月28日