スモールトーク
実測3ケタオーバー
白山の登山口に向かう市ノ瀬までバスで出かける機会がありました。市ノ瀬ビジターセンターと道を挟んで向かい合い一軒だけ残る温泉宿の自動販売機はすでに半分ほどが温かい飲み物になっていました。昭和九年の大水害まではいくつかの旅館があったのだそうですが、上流からの土砂が流れ込み数メートルも積もった中にほとんどが埋もれ、ビジターセンターは堆積した土砂の上に建てられているということです。いま残っている宿は永井旅館のみで通には人気があり、秘湯めぐりで温泉を目的にここまで入ってくる人もいるぐらいですので、白山登山からの下山後に時間があれば一度は立ち寄りたいところです。川を下ると「百万貫岩」と呼ばれる巨岩が川原の石ころの中にあるのですが、これもまた昭和九年の大洪水の際に土石流でここにきたものだそうで、普段なら車の窓から横目に眺めて取り過ぎていたのを初めて今回は川原に下りて岩の近くまで行ってみました。近年の実測では129万貫(約4800t)、高さ16m、周長52mもあるとのこと、実際に「百万貫」を超える重量があることに妙な安心感を覚えてバスに戻りました。帰り道はいつもの通り、かつて山手五村などと呼ばれていた白峰・尾口・吉野谷・鳥越・河内を貫通する立派な道を途中で白峰と東二口の村にも立ち寄り、住民が高齢化する中で自分たちの生活を大切にしていることを聞かせてもらうことができました。白山麓でもこのあたりは積雪が多く冬になると二階から出入りしていたという話はよく聞いたのですが、もうひとつ大変なのが地すべりということは知りませんでした。雪深い山では人が住むことのできる平地はわずかしかなく、その平地も川に挟まれた台地状で水に不便な場所がブナの木に囲まれて地すべりから守られているとのこと。見ているだけでは分らないことでした。白峰の報恩講や東二口の木偶まわしは、古い伝統を守るというより自分たちの現在を未来につなぐよりどころのように感じます。遠くまで空を見渡すことのできる海岸や平野と違い、山に入ると頭の上にしか空がなくてどこから雲が湧いて風が変わるか分らないなかで自然を相手に生活するにはご利益が無いと分っていても信じることが大切だという話には重みがありました。
2013年10月31日