スモールトーク

故郷の風景

ATGからタクシーに乗ったとき爆弾かと疑われるほど大切に扱っていたフィルムが大島渚監督の「夏の妹」でした。沖縄を舞台にした観光映画のようなこの写真が佐々木守の脚本によるものだと彼の故郷の能美市のメモリアル講演で初めて知りました。放送作家はテレビの世界だけで活動していると思っていたのですが、大島渚だけでなく松田政男・若松孝二・足立正夫など一つの時代を象徴するような映画監督達と関わっていたそうです。コンビを組んでいた今野勉さんによると、児童文学と記録映像との両方を使い分けができる人のようで、それが“七人の刑事”“ウルトラマン”“コメットさん”“ハイジ”“巨人の星”“絞死刑”“新撰組”などの幅の広さになったことが分かります。
 驚いたのは佐々木が殺人犯永山則夫を扱った映画のスポンサーだったことです。そして不思議なことに、中平卓馬の“植物図鑑”を手にしていたころに、今野さんが上映されなかったというこの不可解な風景映像を私は確かに見た記憶があるのです。永山の見た風景の写真を見たのです。今野さんにとって故郷の風景とは今は既に原野に帰した炭坑の谷間の軒先をかすめて走る汽車であり、その夕張の風景は日本の風景として常に疎外されていたと語る今野勉さんの話で“略称・連続射殺魔”の謎の一つが解けたような気もしました。そして、佐々木がパレスチナに向かうことなく故郷と適度な距離を保ち続けたことも当然だと思ったのです。

2007年12月1日