スモールトーク

松任の赤犬

夏は太鼓の季節。遠い太鼓の音が聞こえてくると、まだカッパやカワウソが身近で悪さをした時代のことを知る年寄りから聞いた話を思い出します。何時もうろついていた犬がいなくなると「イヌコロシ」に連れていかれて太鼓の皮にされたと言われたのです。しかも、それが赤犬だと、赤犬は食用になるとの説もあって今になるとなおさらリアリティが増してきます。かすかに残る犬の記憶ですが、「松任の赤犬」と呼んだ大きくもなく可愛くもなく殆んど懐くこともない野良犬たちがいて、吠えることもなく咬みつかれると威かされたものです。もしかしたら、子供相手の不愛想さからするとあれは地犬の特性で、第七の日本犬ともいうべき幻の天然記念物「越の犬」の末裔だったのかもしれません。しかも、かつては石川県に加賀犬(前田犬)というグレイハウンドのような地犬もあったそうで、あるいはこれと比べて越の犬は格下の赤毛のインコロだったのかとも思います。北海道犬も虎毛や黒毛もいるのに白毛だけがテレビで人気をとって、赤毛は人気のないただの地犬のようです。星の入った黒毛と比べても確かに見劣りはするのですが…。それから、後になって分かった事ですが、犬の皮は“お月さまいくつ”のように太鼓の皮にもなるのでしょうが、実際は猫の皮と同じかそれ以上に三味線の皮に使われているようです。一方、この頃の太鼓は大型化してきたのか、和太鼓には牛の皮などが使われることが多いそうです。

2010年7月29日