スモールトーク
正月は年に二度

父や祖母がいたころの正月は年に二度ありました。一月は父の正月で二月は祖母の正月でした。正月も盆も雛祭も鯉幟も旧暦が生活に残っていたのは、明治生の祖母と大正生の父母がいたお陰です。今はお盆だけが8月ですが、雪の中の正月、陽春の雛祭、五月晴の鯉幟、北陸の暮らしに旧暦は違和感なく溶け込んでいました。正月が二度あった頃の我が家の二月正月は起舟まで鮮魚がなかったのか鰊と大根の麴漬にべろべろえびすが印象に残り、一月の正月では暮に鱈や鰤や黒豆や牛蒡など正月料理の準備をして元旦のお神酒の前に父が小蓋を出してくれた記憶があります。父の料理はこの時だけで小鮒と板蒲と何か少しですが、今になって思うと料理屋さんで出るものではないしおふくろの味とも全く違う趣のものでした。男の料理というほど力みがなく、家庭料理の普段味でもなく、由来が謎のまま、時々、父は自分の口に入れるものを調達していたようです。酒に合わせて、荒れた日の浜に上がったカワハギがあったり、子供は食うなといわれたタニシがあったり、粋がったものでなくこっそりとした印象のものです。これとはまた別に、どこで見分けるのか不思議だったのが草や木の芽で、自転車で出掛けて帰ると酒を温めてチビリと飲むのです。これが何だったのか、確かめたくて受講した和ハーブ講座の講師によると、海岸沿いの土地ではハマボウフが今も定番の様です。湯に通して酢をたらすと色が出て人気のアイテムとなり、これは料理屋さんでも並ぶのかも知れません。ほか、ハマウドやハマゴウなど、海沿いの和ハーブには山菜とは別の親しみを感じます。ただ、食べ方はちょっと問題で、講師に尋ねると何でも天ぷらになり、火を通して風味を閉じ込めると美味しくなるのは確かでしょうが、焼くとか蒸すとか試してもよさそうです。間違えると有毒なものも混じるので安全面から火を通すのが無難です。実は、柔らかそうで大きな芽を吹いた枝を見つけたので、きっとこれがハマウドと思い写真にしてGoogleで探してみたらセンダンと出ました。センダンには防虫効果がありその葉は鹿も食わないそうで、果実は抗酸化効果のあるサポニンを含み人や犬には毒性を有するとのことでした。加熱で変性する毒ですが新芽も危ういので苦にするのはやめました。でも、このサポニン、ゴボウにも含まれていて、母が最後に作ってくれた正月料理が灰干牛蒡だったことを思い出します。青魚が苦手の母がアクを抜いて頼りなくなった灰干牛蒡を再現するのも、麹漬と同様に簡単そうで何時でも聞けると思っているうち教わるのが難しくなってきました。