スモールトーク

石川の盆の踊りはじょんがら節

 お盆を過ぎて与那国島の南で発生した台風はそのまま北上して黄海の奥深くまで入り込み、朝鮮半島で低気圧に変わってからも石川平野では南から山越えの乾いた風が吹いて暑い日が続きました。普段ならまだ学校の夏休みが終わる前の8月の最後の週は、早生の稲刈りが始まる時期で、ナシやブドウやイチジクなど地場の食べ物がおいしく、9月になると底引き網漁も解禁になり、雨上がりにはキノコも出てくるので、自分で調理しなくても市場のお店を覗くのが楽しい季節になります。まだまだ暑い秋の始まり、夏に咲く朝顔は秋の季語になっていて、これから秋の風を感じる頃にはまだまだ多くの花をつけます。ちょうど、旧暦のお盆の時期は、月遅れの8月15日よりももう少し後の時期が昔のお盆ということで、そう思うと日の暮れが早くなって凪いだ風も少し涼んでくるので外で夜を過ごすにはなかなかいい時期です。「朝顔につるべ取られてもらい水」の句を詠んだ加賀の千代女ですが、盆踊りが好きだったそうで、村々で踊りがあると出掛けて行ったということです。江戸時代には多くの村で盆踊りがあったという事にもなります。自分が踊ったのか、踊りを見に行ったのか、もしかしたら自分で歌ったのか、歌を聞くのが好きだったのか分かりませんが、アドリブ交じりの歌詞や駆け引きは俳句を作るにはいいヒントだったと思われます。私が小さい頃にお盆の墓参りで父の実家に泊まると、うらの倶楽部の広場にやぐらが組まれて里帰りした人も集まり、空に明かりが残っているうちはレコードで踊っていたのが、ナマ歌に三味線が加わると次第に場が引き締まり、夜が更けるにつれて歌も冴えてきたように子供なりの憶えがあります。石川の平野での踊りは「じょんがら」で、今と違って一晩だけで終わることはなく、村によって歌も踊りも随分と特徴があるようです。石川の古い村々の奥深くで長く引き継がれてきた盆踊りですが、この夏、踊り手も歌い手も高齢化しているところにコロナ感染防止対策が重なり、中止を決定するところが多くなりました。多くの人のお世話があって成り立つお盆のイベントですが、この先も、多くの村々で多様なじょんがらが踊り継がれ歌い継がれることと思っています。

2020年8月28日