スモールトーク
KY式ソンタク

空気を読むことを知らない者にとっては、何で騒いでいるのか議論の盛り上がりを掴みきれないうちに話題が集結し、課題の解決を避けることが結論であるかと思うような話がときどき見うけられます。「夫婦の老後資金として30年間で約2000万円が必要」との試算をした金融審議会の報告書の提出に対し、担当大臣が「不安と誤解」を理由に受領を拒んだため審議会は事実上これを撤回したとのこと、選挙前の空気を読むことができる人にとっては当然の決着のようです。公的年金を受給できてもこれと別に老後の生活のために65歳の時点で2000万円もの資産を用意するのが難しい人が多く、年金だけで安心して生活するには毎月5万円の増額が必要という結論に至る経路を選挙前に封鎖することが重要だったのです。報告書に盛り込まれた試算の内容ではなく報告書を提出する時期を問題にしているようでもあり、このあたり、提出に際し審議会が担当大臣の胸のうちを十分に忖度し尽くした報告でなくてはならないことを示したとも見えます。おそらく、この審議会は幅広く意見を問う趣旨でなく特定の方針を補強するため設けられ、目的に沿わない内容であったため報告を撤回したとでも考えないと、諮問委員会などの活動は大臣の考えを忖度しないと成り立たなくなります。何とも面倒な世だと思いますが、皆が場の空気を読み他人を忖度する中で、そのような技量を身に着けることのない者は迷惑な存在となりつつあるようです。同業の人達との話の中で驚いたのは、「他人の顔色を読む」ことは仕事の大事な一部分であり、「他人の機嫌を取る」ことが人の管理の根幹となる、という考えが当たり前になっていたことです。私の開業時と比べると、大企業・大組織に就職しバブルの時期をそこで過ごした人たちが多く、このような領域でコミュニケーション能力を磨いてきた世代なのかもしれません。私など幾ら忖度したくても相手の心が読めず、人並み以上に配慮されていても気がつかず、どうやら、この中では扱いにくい人間のひとりになっているようです。そう考えると、自分では気楽に毎日を過ごしているつもりでいても、見えないところで多くの人達に支えてもらっていることが分ります。また、この先、嫌われ者のバブル世代や八方美人のロスジェネ世代に支えてもらうよりないことも確かです。
2019年7月30日